著者:中村博志
正直、本書を読んで感じたことは、『
子どもたちに伝える命の学び』(兵庫・生と死を考える会著)を読んだときと全く同じこと。つまり、全く信頼に値しない調査・分析で偏見を作り出し、ただの願望を効果と言い張っているだけ、と言うもの。
「一度死んだ生きものが生きかえることがあると思うか」
この質問に、「生き返る」「生き返ることもある」と答えたことから、著者は、現代の子供は生死観がおかしくなっている。昔は、身近に死があったが、それがなくなったからだろう。そして、その狂いが凶悪犯罪や自殺に繋がっている、と言う風に言う。そして、これを教えることで、自殺などを防げる、とも言う。
はっきり言って、ただの妄想、としか言いようがない。
そもそも最初の質問、あなたならどう答えるだろうか? この質問、実に難しいのである。というのは、「死とは何か?」「生き返る、とは何か?」しかも、「生き返ることがある」と極めて微妙な言い回しになっている。極めて曖昧であり、多様な解釈が可能なのである。例えば、この質問を「理科(生物など)」の時間でしたときと、「道徳」の時間で行ったときでも大分違うと思われる。生物学的に生き返らないと知っていても輪廻思想などから「生き返る」と言う人もいるかも知れないわけである(ちなみに、兵庫・生と死を考える、では一応、その辺りの留保はされている)。それらについて一切考慮することなく、「死の認識がおかしい」と断言してしまう(ちなみに、一番古い調査で95年なので、それ以前がどうなのかも不明)。
しかも、それが少年犯罪や自殺の原因と言い切るのも間違い。これらは統計を見れば、全くのデタラメなのが明らか。また、自殺などに関して言えば、「死んだら生き返らない」からこそ、行う可能性だってあるわけだ(死んでも生き返るなら、自殺しても再び苦しみに戻されるだけだろう) こういう部分が完全に、ただの思い込みである。
私自身の考えとして、「死のタブー化」が良いことだとは思ってはいない。また、「死」について考える機会を作るもの悪いとは思わない。けれども、本書のような全くの偏見と願望だけで行うのはどうかと思うし、また、著者の言うような「現代は病んでいる」というもどうかと思う(本書では、ゲームやマンガを生死観を狂わせる悪の元凶としているが、仏教の輪廻思想だとかは、最悪のものにならないだろうか? ゲームなども、それらを元ネタにしているものが多い) ちなみに、著者の講義の感想文を「効果」として載せているわけだが、講義後、「感想文を書きなさい」と書かされた感想文にどの程度、本音が書かれるのか私には疑問である。
著者の短絡さばかりが目立つ書である。
通算1143冊目
テーマ : 読んだ本の紹介 - ジャンル : 本・雑誌